インフルエンザ流行っていますね。
熱だけなら良いのですが重症化するとインフルエンザ脳症といって専門機関での加療が必要となることもあります。
主な症状の特徴や注意点など参考にしてもらえるようまとめてみました。
インフルエンザ脳症とは
インフルエンザで最も重い合併症がインフルエンザ脳症です。
死亡率は約30%で、後遺症も約25%の子どもに見られる重篤な疾患です。
20歳以上の成人例に比べ、0~4歳、5~19歳の報告数が多く、子どもはより注意が必要です。
診断
意識障害があることが条件で、そのほかに頭部CTやMRI検査を行って診断を付けます。
主な症状
脳症の主な症状は意識障害、けいれんです。
これらの症状が長時間続く場合は小児科医は脳症を疑います。
ただこれらの症状が起きる前に異常行動などを起こすことが言われており下に例を挙げます。
前駆症状としての異常言動・行動の例
1 両親がわからない、いない人がいると言う
2 自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない。
3 アニメのキャラクター・象・ライオンなどが見える、など幻視・幻覚的訴えをする。
4 意味不明な言葉を発する、ろれつがまわらない。
5 おびえ、恐怖、恐怖感の訴え・表情
6 急に怒りだす、泣き出す、大声で歌いだす。
これらの症状は、大脳辺縁系の障害との関連が示唆されていて脳症の一症状の可能性があります。
熱せん妄といってインフルエンザ脳症とは関係なく起きうる可能性はありますが症状が長時間(1時間以上)持続しているようなら病院を受診しましょう。
短時間の症状でも普段と様子が違っていたり、判断に困った場合も病院での評価が無難でしょう。
治療
支持療法
まずは支持療法を行い輸液や酸素投与などで循環、呼吸動態などを安定化させます。
けいれんがある場合は抗けいれん薬を、そのほかには脳圧を下げる薬や高体温を是正します。
特異的治療
インフルエンザに対する抗ウイルス薬やステロイドパルス療法、ガンマグロブリン大量療法を行います。
特殊治療
脳低体温療法や血漿交換療法、シクロスポリン療法、アンチトロンビンⅢ大量療法などがあります。
これらは主に高次医療施設で行う治療になります。
解熱剤は使っていいの?
解熱剤を使ってよいのかよく質問を受けますが小児科学会からの報告によると
1999、2000年のインフルエンザ脳炎・脳症研究班(森島恒雄班長)の報告では、解熱剤を使用していない症例でもインフルエンザ脳炎・脳症は発症しており、その死亡者が5分の1を占めているところから非ステロイド系消炎剤が脳炎・脳症を引き起こしていることは証明されていない。
日本小児科学会ホームページより
しかし、1999年のデータに比して2000年のデータではインフルエンザ脳炎・脳症が発症した場合の致命率についてはジクロフェナクナトリウムは有意差を持って高くなっている。一方、メフェナム酸に関しては2000年の調査でははっきりした傾向は認められなかった。
また、他の非ステロイド系消炎剤の使用については、調査症例数が少なく、現段階でその関連性が明確になっていないので、さらに調査が必要である。
一般的に頻用されているアセトアミノフェンによる本症の致命率の上昇はなく、インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればアセトアミノフェンがよいと考える。
以上より一部の非ステロイド系消炎剤はインフルエンザ脳炎・脳症の発症因子ではないが、その合併に何らかの関与をしている可能性があり、インフルエンザ治療に際しては非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきである。
つまりすべての解熱剤がダメなわけではなくアセトアミノフェンは使用しても大丈夫です。
しかし、大人でよく処方されるアスピリン、ジクロフェナク Na、メフェナム酸は決して使ってはいけません。
ワクチンで脳症は防げるのか
インフルエンザの発症を予防するにはインフルエンザワクチン接種が有効ですが、ワクチンの最も大きな効果は、重症化を予防することです。
小児では、6歳未満の小児を対象とした2015-2016年シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は約60%と報告されています。
それではワクチンでインフルエンザ脳症を予防することができるのでしょうか?
「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療および予防方法の確立に関する研究」(主任研究者:森島恒雄)の成績(中間報告)によると
インフルエンザ脳症患者とインフルエンザ罹患者の間でワクチン接種率に有意な差はなかったとしており、インフルエンザ脳症の阻止という点でのインフルエンザワクチンの有効性は低いと考えられました。
しかし、インフルエンザ脳症はインフルエンザ罹患者に発症する疾患ですので、ワクチンを接種することでインフルエンザ罹患の可能性を減らします。
その結果として脳症発症の可能性のリスクを減らす可能性はありますので、ワクチン接種の意義はあるものと考えられるでしょう。
インフルエンザ脳症は小児科医でも判断に迷う場合があります。
意識障害が長時間続いていたり普段と様子が違う場合は病院に行くのが無難でしょう。
<参考>
・インフルエンザ脳症ガイドライン(厚生労働省)
・乳幼児(6歳未満)に対するインフルエンザワクチン接種について(日本小児科学会)