天才的な能力を持つサヴァン症候群になる原因は?遺伝や自閉症との関連についても
山崎賢人さん主演のドラマ「グッドドクター」などでも話題のサヴァン症候群ですが、今回はその原因、天才的な能力の特徴や自閉症との関連、遺伝についてなど詳しく解説していきます。
サヴァン症候群とは
1887年、イギリス人のジョン・ラングドン・ダウン医師(ダウン症候群も発見)は先天的な知能低下にもかかわらず類い稀な才能を併せ持った10人の症例について報告しました。
その人たちの逆説的な能力を強調して、Idiot-Savant(白痴の天才)と名付けました。
現在はidiotという表現が適切ではないとされ、フランス語で賢人の意味を持つ、サヴァン症候群 (Savant syndrome)」と呼ばれるようになりました。
彼らの才能は、音楽、絵画、彫刻、計算、工作、記憶など多岐に及びますが、すべての症例で重度の精神遅滞や認知障害がみられました。
映画「レインマン」に登場するレイモンド・バビットのモデルとなった実在の米国人であるキム・ピークが、過去に読んだ9000冊の本を正確に記憶しているという驚異的な能力をもったサヴァンとして知られています。
他にも画家の山下清さんや、イギリスのダニエル・タメットさんなどがサヴァン症候群として有名です。
他にもネット上では色々な有名人がサヴァン症候群ではないかと噂されていますが真偽の程は分かりません。
サヴァン症候群の能力の例
驚異的な記憶力
電話帳に収められた氏名や住所をすべて記憶している例や、米国全土の都市と道路を記憶している例があげられます。
音楽的才能
絶対音感や驚異的な楽曲の記憶力、一度聴いただけの楽曲を完璧に演奏する能力、20もの楽器を正確に使いこなす能力などが報告されています。
計算能力
任意の日付の曜日を瞬時に答えるというカレンダー計算能力は、サヴァン能力の中でも頻度が高く最もよく研究されている能力です。
他に3桁の整数の3乗を瞬時に暗算する例、20桁の整数が素数であるか否かを判断する例なども報告されています。
語学
年齢相当の知能水準よりはるかに高いレベルの読字能力を持つ児がおり、読字過剰と呼ばれます。
知覚
過去に見た情景を正確に記憶し、再現する直観記憶 (eidetlc memory)の例や提示された無数の対象の数を瞬時に答える例、母国語でない言語の会話を正確に再現する例などが報告されています。
芸術
絵画、彫刻などの芸術領域における才能も報告されており、細部描写に優れ極めて写実的であるとされます。
時間、空間的認知に関する才能
時計を見ずに正確な時間を答える能力、道具を使わずに正確な距離を答える例などが報告されています。
実際に、これらのサヴァン能力は特殊技能と形容すべき能力として開花する場合が多いです。
地図や電話番号の記憶ら音楽や計算などの能力が最も多く、これらは断片的技能と呼ばれます。
サヴァン症候群の分類について
通常は1人の患者につき1つの能力が開花しますが、まれに複数の才能を同時に発現するサヴァンも存在します。
またサヴァンの能力には大きな個人差がみられます。
ある特定の才能が突出し、その個体の知能水準から推測されるレベルを超える有能サヴァンと、さらに知能障害や認知障害のない一般母集団と比較しても十分に驚異的な能力であると判断される天才的サヴァンの2群に分類されます。
天才的サヴァンは非常に珍しく、現在世界中で報告されている者は総計50人にも満たないとされています。
サヴァン症候群と精神神経疾患との関連
サヴァン能力はほぼ必ず何らかの精神神経疾患に伴って出現し、中でも自閉症を伴う例が半数以上を占め、自閉症サヴァンと呼ばれます。
実際にサヴァン患者の多くでは強迫行為や常同行為、決められた手順や細部への異常なこだわりなど、自閉症と共通の行動学的傾向がみられます。
また自閉症と同様にサヴァン患者は圧倒的に男性に多いとされます。
自閉症患者のうち10人に1人がサヴァン能力を保持していると報告されていますが、軽度のサヴァン能力を含めると実際にはさらに多い可能性があることからサヴァン能力を自閉症の基本症状の一つに含めようとする立場もあるようです。
また、サヴァン症候群は必ずしも自閉症患者だけに限りません。
約半数はアスペルガー症候群を含むその他の発達障害、精神遅滞、ウィリアムス症候群、Prader Willi症候群、Gilles de la Tourette症候群、幼児期の脳損傷を含むさまざまな中枢神経障害に伴って出現します。
サヴァン症候群と遺伝について
サヴァン能力との関連が深い自閉症は遺伝的要因が深く関与しています。
サヴァン能力をもつ自閉症児の親は、サヴァン能力をもたない自開症児に比べて、より高度なサヴァン能力が必要とされる職種に就いていることが多いようです。
このように、自閉症サヴァンでは何らかの遺伝的背景が関与しているのかもしれません。
サヴァン症候群になるには?原因は?
サヴァン症候群になるはっきりとした原因はわかっていませんが、いくつか仮説は唱えられています。
①機械的記憶説
記憶などの既存の認知機能の強化、拡張に過ぎないという仮説。
②代償性機能亢進仮説
脳のある領域の機能が損なわれたことにより、その領域が抑制していた別の領域の神経活動が脱抑制的に亢進しているという説。
サヴァンの能力は、左側頭葉前部の活動の抑制によって引き起こされた右頭頂葉の逆説的機能充進現象ではないかという報告もあり。
③自閉症の認知モデルの拡張
総合的な情報処理能力が低下して局在的な処理能力が代償的に亢進する。
④機能性結合性低下仮説
脳内の広域の協調が必要とされる統合的な情報処理過程よりも、局在的な情報処理過程が優位に立つという仮説。
このようにいくつかの仮説がありますが、まだはっきりとした原因は分かっていません。
おそらく、前述したような遺伝的素因や後天的な要因が複合的に関わっている可能性はありそうです。
まとめ
今回はサヴァン症候群についてでした。
まだまだ謎の多い領域ですので今後の科学、医学の進歩でどんどん原因が解明していくといいですね。
高畑圭輔, 加藤元一郎: サヴァン症候群: 分子精神医学. Vol.7, No.3, 268-272, 2007